石奈多、忘れられない十割蕎麦

今はもう簡単には味わうことができない至極の蕎麦。
店主は数十年前都内で商社マンをされていたそうですが
こちらの古民家を見るなり一目ぼれをして
蕎麦屋を始めてしまったという経歴の持ち主です。
朝早くから蕎麦を打ち、
奥様が体調を崩されてからは接客もされていた陽気な店主さん。
ここの10割蕎麦が本当に好きで何度も何度も通っていました。
土間を上がると畳敷きの部屋は落ち着く古き良き古民家でした。
ある時たまたま外で何かの準備をしていた若主人を見かけたので
「十割蕎麦本当においしいですよね」
「もはや芸術ですよね」
と声をかけると
「ありがとうございます。自分が十割蕎麦、毎朝打ってます」
「二八はおやじです。」
とのことでした。
それからここのお蕎麦屋さんの成り立ちや、ご自身が日本料理屋さんで修業されたことなども
話してくださいました。
どおりで蕎麦定食の小鉢やてんぷらなどとても洗練されているはずだ。
この料理を提供できる方はただものではないと思っていたのが腑に落ちました。
急に商社マンから蕎麦屋になるからと父親から告げられて
東京から栃木のこの場所に引っ越すことになり、当時はとても困惑したとおっしゃってました。
しかも蕎麦屋がやりたくてではなく古民家にほれ込んだというまさかの理由で(笑)
蕎麦の香りもつゆも本当においしくて、極細の角(かど)がピシッと立った美しい蕎麦。
まさに芸術。
蕎麦は粉はもちろん、その日の天候や湿度にも左右されるようです。
奥が深いです。

2年前にお店を閉じてしまい、現在、若店主は大分県の湯湯院に日本料理のお店を構えています。
席数8席、1日10~15人限定のお店で
お料理のメニューはなく、おまかせのコースのみとのことです。
あの古民家での十割蕎麦を食べるのはもうかなわないことになってしまいましたが
新天地の由布院でまた違った至極のお蕎麦が食べれるかもしれないと思うと、
そう遠くない日に必ず訪れようと思います。
